電磁波関連報道情報(2004年以前)

<報道情報>  2005(平成17)年
「携帯の電磁波がDNAにダメージ」と欧州の研究者
この研究は実験室環境で行われたもので、健康上のリスクを証明するものではないが、実験室の外でも同様の影響が見られるか研究する必要があると科学者は話している。(ロイター)
 欧州連合(EU)から出資を受けて実施された新たな研究で、携帯電話が発する電磁波は実験室環境において、体細胞に悪影響を及ぼし、DNAを傷つけることが示された。研究者らが12月20日に発表した。
 この研究はREFLEXプロジェクトと呼ばれ、欧州7カ国の12の研究グループによって実施されたもの。この研究は、携帯電話が健康にとってリスクとなることは証明していないものの、実験室の外でも同様の影響が見られるかどうかを確認するためにさらなる研究が必要だと結論付けている。
 年間1000億ドル規模にも及ぶ携帯電話業界では、電磁放射のせいで人体に悪影響が及ぶという断固たる証拠は何もないと主張している。
 2004年は世界で約6億5000万台の携帯電話が販売されると見られており、世界では15億人以上の人々が携帯電話を使用している。
 この研究プロジェクトはドイツの研究グループVerumの調整の下、4年がかりで実施されたもの。実験室内で電磁波が体細胞と動物細胞に与える影響が研究された。
 実験では、典型的な携帯電話の電磁場にさらされた細胞で、1本鎖DNAと2本鎖DNAの破損が大幅に増えた。この損傷は必ずしも細胞で修正されるわけではなかった。DNAは有機体とその各種細胞の遺伝物質を運ぶ役割を果たす。
 「その後の世代の細胞にも損傷が残った」とプロジェクトリーダーのフランツ・アドルコファー氏は語っている。
 これはつまり、変異が再現されるということだ。変異細胞はガンの要因になり得ると見られている。
 この研究で使われた電磁波のSAR(Specific Absorption Rate)レベルは0.3〜2W/kg(ワット/キログラム)。大半の携帯電話のSARレベルは0.5〜1W/kgだ。
 SARは人体組織に吸収される電磁波のエネルギー量を表す基準で、国際非電離放射線防護委員会 (ICNIRP) が推奨しているSARレベルの上限は2W/kgだ。
 この研究は、細胞に及ぶそのほかの有害な影響についても測定している。
 研究者によれば、実験室環境での測定となるため、この研究は何ら健康上のリスクを証明するものではない。だが彼らは、「遺伝子的な影響や形質的な影響に関しては、明らかにさらなる研究が必要だ。動物や、有志の人間を対象に研究する必要がある」と付け加えている。
 アドルコファー氏は、携帯電話の使用に関して、固定回線電話が利用できるときには携帯電話を極力使わないようアドバイスするとともに、可能な場合はいつでも、携帯電話にヘッドセットを接続して使うよう推奨している。
 「パニックを引き起こしたくはない。だが、注意するに越したことはない」と同氏は語り、追加の研究にはさらに4〜5年かかるだろうと付け加えている。
 携帯電話の電磁波が人体に与える影響に関しては、これまでにも幾つか民間の研究で、体組織を加熱したり、頭痛や吐き気を引き起こすといった影響が及ぶ可能性が指摘されている。だが今のところ、電磁波が永続的な有害な影響を持つことをしっかりと証明できている研究はない。
 世界の携帯電話ベンダー大手6社からは、この研究結果に対するコメントは得られなかった。
 また、これとは別に香港では(香港では欧州よりもユーザーが携帯電話で話す時間が長い傾向にある)、ドイツのG-Hanzという企業が、無線信号のバーストが短いため有害な電波を発せずに済むという、新しいタイプの携帯電話を発表している。
(2004/12/21:ロイター)
進む携帯基地局建設に対応、苦情担当窓口設置へ−−福岡市
 福岡市の山崎広太郎市長は、市内で進む携帯電話の中継基地局建設に各地で住民が反対運動を起こしていることを受けて「携帯電話の普及で今後もトラブルが増えることが予想される。総務企画局に担当窓口を置く」と述べ、市が対策に乗り出す姿勢を明らかにした。開会中の12月定例議会で中原貢議員(公明)の一般質問に答えた。
 携帯電話が発する電磁波は人体に影響を与える恐れがあるほか、中継基地局建設が景観悪化を招いたり基地局内の冷却機が騒音の原因にもなることなどから、反対運動は全国で起きている。市内の基地局は携帯電話会社3社で計622カ所(今年3月末現在)。市には基地局撤去の陳情などが11地区から14件出されている。
 答弁で山崎市長は「行政として最大限の検討をしたい。日ごろから携帯電話会社と意見交換して情報把握に努め、(基地建設の)実施に入ってから対応するのでなく、会社の事情も(市が)しっかり把握することが大切」とした。
 10日、東区美和台4の基地局建設計画に対し反対の請願を8411人の署名を添えて市議会に提出した「『ドコモ九州』対策委員会」の世話人代表代行、森祐行・九州大名誉教授は「携帯電話会社がどのように今回の答弁をとらえるか見極めていきたい」と話した。【山本泰久】
(2004/12/16:毎日新聞)
携帯電話の電磁波の危険性、解明へ向けた調査が本格化(海外)
 携帯電話は今日、固定電話と同じくらい普及しているが、携帯電話を使用したり、基地局のアンテナ塔(写真)に近づいたりすることが健康に与えるリスクを心配する人はほとんどいない。
 しかし、携帯電話やアンテナ塔が出す電磁波の影響を調べている研究者たちの間では、それらが人体に無害だと結論づけるのはまだ早いとの考えが支配的だ。
 「現在のところ、何らかの確たる結論を下せるような、適切な科学的研究はほとんど行なわれていない」と、エセックス大学心理学部のエレイン・フォックス教授は話す。フォックス教授は、携帯電話の基地局が発する電磁波が、人間の健康に直接影響を及ぼすかどうかを研究している。
 フォックス教授の研究をはじめ、いくつかの同様のプロジェクトが先月、イギリスの『移動通信および健康に関する研究』(MTHR)プログラムから資金提供を受けた。MTHRは2001年、携帯電話から出る電磁波が人体に悪影響を及ぼすか否かを調査する目的で立ち上げられた。MTHR誕生のきっかけとなったのは、ある報告書が発表されたことだった[2000年5月の『スチュワート報告』(日本語版記事)]。この報告書では健康に対する悪影響の証拠を発見できなかったものの、まったく危険がないと結論づけるには、これまでの研究だけでは不十分だと指摘している。
 これまでの研究は主に、携帯電話の使用と脳腫瘍との関係、携帯電話の電磁波が血圧に及ぼす影響、幼児期のガンと基地局との距離の関係などを取り上げてきた。
 一方、最近の研究では、いわゆる「電磁波過敏症」の科学的根拠などを検証する傾向が見られる。これは、頭痛や倦怠感など複数の症状を引き起こすとされ、携帯電話やアンテナ塔に接近することで発症すると一部で考えられている。
 フォックス教授は1月からボランティアを使って研究を進めてきたが、それを基にした今後の調査では、携帯電話が発する電磁波にとりわけ敏感な人が存在するかどうかに焦点を当てるという。研究プロジェクトの第1段階で4000人を対象に調査を行なったところ、頭痛や皮膚の焼けるような感じといった特定の自覚症状があり、原因は電磁波の影響だと回答した人が約6%いた。
 先月始まったプロジェクトの第2段階では、自分は電磁波に特別敏感だと考えている人とそうでない人を比較するテストを行なっている。携帯電話の基地局が実際に健康に影響を与えているかどうかを確かめるのが目的だ。
 ロンドン大学キングズ・カレッジを拠点とする別の研究プロジェクトでは、120人を対象にテストを行なっている。被験者の半数は自身のことを、携帯電話の電磁波にとりわけ敏感だと考えている。キングズ・カレッジの研究員でこのプロジェクトを指揮するジェイムズ・ルービン氏によると、研究に必要な数のボランティア(PDFファイル)が確保できれば、来年末までには研究成果の発表にこぎつけたいという。
 「携帯電話の電磁波に敏感だと自覚しているような人は、当然ながら、携帯の電磁波に身をさらすテストへの参加には慎重になりがちだ」と、ルービン氏は話す。ルービン氏のプロジェクトでは、携帯電話の電磁波が頭痛や吐き気、めまい、倦怠感などの症状を引き起こすかどうか、また代謝の調節にとって重要な特定のホルモンの値に影響を及ぼすかどうかを調査する。
 1990年代半ばに携帯電話が本格普及してから約10年が経ち、携帯電話の長期使用が人体に及ぼす影響の調査も比較的実行しやすくなった。しかし携帯電話業界の人々は、利用者に警戒を呼びかけなければならないような研究結果はいまだ出ていないと主張している。
 「携帯電話が健康被害の原因になっているという決定的な証拠はない。アンテナ塔についても同様だ」と、米国セルラー通信・インターネット協会(CTIA)の広報はコメントした。
 米食品医薬品局(FDA)も、携帯電話の基地局が健康に及ぼす影響について、CTIAと同様の見解を示している。
 「塔の上に設置された、携帯電話およびPCS(パーソナル通信サービス)の基地局アンテナ付近で測定を行なった結果、地上に立つ人が浴びる電磁波の平均値は、(米連邦通信委員会が定める限界値の数千分の1に過ぎないことを確認した」と、FDAはウェブサイトで説明している。
 FDAはまた、携帯電話の使用についても、これを何らかの健康問題に結びつける科学的根拠は存在しないと主張しているが、その一方で、携帯電話が100%安全だという保証もないと述べている。
 世界保健機関(WHO)は現在、『国際電磁界(EMF)プロジェクト』を進めており、2007年には電磁波の健康へのリスク評価を完了する予定だ。同プロジェクトでは、携帯電話が発する電磁波を含む周波数300GHzまでの電磁界が人体に及ぼす影響を調べている。
 電磁波の規制強化を訴える活動団体『ワイヤレス技術の影響に関する審議会』のリビー・ケリー会長は、医療当局は携帯電話やアンテナ塔の危険性を過小評価しているとの見解を示した。
 ケリー会長はその根拠として、スウェーデンのカロリンスカ医科大学が10月に発表した研究報告を例に挙げた。それによると、携帯電話を10年以上使用した場合、聴神経腫瘍を発症する危険が増大するという。聴神経腫瘍は、聴神経にできる良性の脳腫瘍の一種だ。ただし、この研究はアナログ方式の携帯電話を10年以上使用した場合について調査したもので、研究チームによれば、デジタル携帯電話の長期使用でも同様の結果が出るかどうかはわからないという。
[日本語版:米井香織/高橋朋子]
(2004/12/9:米国WIRED)
携帯電話、健康への影響は確認できず――英政府諮問委
 イギリス政府の諮問委員会はこのほど、携帯電話が人体に悪影響を及ぼすとの見方について、その証拠はないとする報告書を発表した。ただ、携帯電話の歴史は浅く、十分に研究が行なわれていないため、「健康に影響がある可能性は消えておらず、引き続き調査が必要」と強調した。
 同委員会は、がんの権威である英ガン研究所のアンソニー・スワードロウ教授を委員長とし、専門家らで構成。政府の諮問を受けて、健康への影響を調査していた。
 イギリスでは2000年5月、政府の諮問委員会が『スチュワート報告』を発表。人体への影響は確認できないものの、子どもは使用を控えるよう警告し、世界的に注目を集めた。同報告は、3年以内に改めて調査を実施するよう求めていたため、スワードロウ教授らが再検討を続けていた。
 同委員会は、スチュワート報告以降に発表された電磁波の研究結果、医療データなどをチェックした結果、健康に悪影響があることを示す決定的な証拠は見つかっていない、という結論に達した。
(2004/1/20:Wired News)
携帯電話「10年以上の使用で、脳腫瘍が2倍に」
 スウェーデンの世界的な医学研究機関、カロリンスカ研究所は13日(現地時間)、携帯電話を10年以上使っていた人に脳腫瘍(しゅよう)の一種である「聴神経鞘腫」の発生の危険が高まることが分かったと発表した。
 聴神経鞘腫の患者150人と健常者600人に聴き取り調査を行なって、病気の発生と携帯電話の利用状況を調べた(PDFファイル)。それによると、携帯電話を10年以上使用してきた人は、聴神経鞘腫の発生が、使っていない人のほぼ2倍になっていたという。
 また、携帯電話を常に左か右の同じ側で使っている人をみると、4倍近くにはね上がった。利用期間10年未満のユーザーでは、とくに増加はみられなかった。携帯電話の種類はアナログ式に限った調査で、デジタル式については、まだ使用された期間がアナログほど長くないため、関係は不明としている。
 研究は、WHO(世界保健機関)の国際ガン研究所(IARC)が中心となってまとめている報告書の一部で、カロリンスカ研究所の環境医学研究所(IMM)が行なった。発表では、携帯電話の利用と聴神経鞘腫の発生との関連を結論づけるには、なお詳しい研究が必要としている。
 聴神経鞘腫は、聴神経にできる良性の腫瘍。聴神経の神経鞘に発生して小脳橋角部に広がるもので、成人の脳腫瘍の1割近くを占める。良性腫瘍だが、耳鳴り、難聴、めまい、言語障害などの症状を引き起こす。
(2004/10/14:Wired News)
調査報告:AMラジオの送信塔に発ガンの可能性
 韓国の科学者チームが、AMラジオ放送局の送信塔の周辺地域では、他の地域よりも白血病死亡率が70%高いことを突きとめた。
 『職業・環境医学の国際アーカイブ』誌の最新号に掲載されるこの論文によると、ガン全体についても、このような送信施設の近くでは死亡率が29%高かったという。
 2002年にイタリアで行なわれた研究では、バチカン放送局がローマに設置している複数の強力な送信機から半径約3キロメートルの範囲で、住民の白血病死亡率が劇的に高かった。
 韓国の研究チームは、100キロワット以上の出力でAMラジオの電波を送信している塔がある10地域の死亡率について調査し、送信施設のない対照地域と比較した。送信塔から2キロメートル以内に住んでいる住民のガン死亡率が大幅に高いという結果から、研究チームは、さらなる調査を行なう必要があるとの結論を出した。
 しかし、ガンと送信施設との直接の関連性を証明することはできなかったと、研究チームは述べている。
 「このような研究はこれまで多数行なわれてきたが、それほど説得力のあるものではない」と、カナダのブリティッシュコロンビア州ガン研究所の疫学者、メアリー・マクブライド博士は話す。マクブライド博士は同様の研究を自ら指揮して多数実施してきたものの、直接的な関連性はまったく発見できなかったとのことで、こうした研究に挙げられているガンの発生率には、他にも多くの要素が関わっているはずだと指摘する。
 また、ラジオの電波によってガンが発生する仕組みが実験室内の研究で解明されていないことも、重要な問題点だとマクブライド博士は述べた。
 大小を問わず送信機から発信される無線電波、また送電線や電子レンジといった他の形態で発生する電磁波が健康にもたらす影響については、今も議論が続いている。
 シアトル在住の疫学者で、電磁波研究の先駆者でもあるサム・ミルハム博士は、電磁波は健康に影響があると確信している。「世界中の多くの研究論文が、送信機の近くでガンの発生率が高いと報告している。しかしこの場合、テレビやFMの送信施設を示唆している場合が多い」
 さらに、低周波の電磁波が生体細胞の機能を損なうという結果も、研究室内で行なわれた実験から多く出ていると、ミルハム博士は主張する。一方、マクブライド博士のような批判派は、このような結果は他の研究室での再現が困難な場合が多いと指摘する。ミルハム博士によると、再現が難しいのは、地球の磁場が場所によって異なることと、電磁ノイズが原因だという。
 このような論争の一部にでも終止符を打とうと、カリフォルニア州保健局では2002年に、送電線、配線、機器から発生する電磁波のリスクについて、その時点で行なわれていた研究すべてを見直した。その結果、有害性を示す確かな証拠は発見できなかった。しかし、電磁波が小児性白血病、成人の脳腫瘍、ルー・ゲーリッグ病(筋萎縮性側索硬化症)と関連している可能性は除外できなかった。
 「政治と大企業の利権が、健康への影響はない(という)見解の背景にあると確信している」とミルハム博士は述べた。
 一方、米食品医薬品局(FDA)世界保健機関(WHO)では、とくに携帯電話からの電磁波について、さらに研究を行なうよう強く促している。
[日本語版:湯田賢司/長谷 睦]
(2004/8/16:Wired News)
携帯電話が不妊の原因に?
 携帯電話を常に持ち歩く男性は、そうでない男性より精子の数が最大で30%少なく、子宝に恵まれる可能性が減っているという研究結果 がこのほど明らかになった。27日付の英紙サンデー・タイムズが報じた。携帯電話をベルトのホルダーやズボンのポケットにいつも入れている男性は、リスクが最も大きいという。
(2004/6/27時事通信)
電磁波の健康影響「根拠ない」と熊本地裁
 熊本市の2地区にKDDIが建設した携帯電話の電波を中継する鉄塔をめぐり、倒壊や電磁波による健康被害の危険性があるなどとして、両地区の住民がそれぞれ同社を相手取り、鉄塔の撤去や計530万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、熊本地裁であった。田中哲郎裁判長は「より多くの電磁波にさらされ、原告らが何らかの健康被害を受けるのではないかと危惧するのに無理からぬ 面がないわけではない」としながらも、「健康に対する具体的な危険が発生すると認めるに足りる証拠はない」と判断」と述べ、原告の請求をいずれも棄却した。
(2004/6/25:時事通信)
「3G携帯の電磁波は2Gよりはるかに安全」――豪政府機関
 オーストラリアの通信監督機関、ACAはこのほど、第3世代(3G)携帯電話や基地局が発生する電磁波は、2Gより弱く、安全だとする文書を発表した。3G基地局の電磁波は、タクシーの無線機の10分の1程度だと強調している。アンテナ設置に対する住民の反発を和らげるのがねらいだ。
 ACAによると、3G端末の電磁波は最大0.125ワット。一方、2GのCDMA端末は最大1ワット、欧州などで普及しているGSM方式は平均0.25ワット。3G端末は、つねに最低限の出力に抑える技術が導入されているためという。また、2Gに比べ基地局の設置間隔が狭いので、電磁波が弱く抑えられていると強調した。
 携帯電話でなくても、物体は電磁波を発生しており、人間の体も平方センチメートル当たり0.3マイクロワット前後の電磁波を発生しているという。これに対し、3Gの基地局の電磁波は、200メートル離れた位置では、平均で同0.015マイクロワット前後にとどまると説明している。
 ACAが2000年に行なった調査によると、人間が浴びている電磁波のうち9割以上はAMラジオによるもので、デジタル携帯電話の基地局が発しているのは1.4%にすぎないという。
(2003/12/25:Wired News)
有名人も使う「電磁波から身を守る腕時計」はインチキ商品か?
 『スタートレック』の宇宙船『エンタープライズ』号が敵の攻撃から船体を護るのに使用する防御シールド発生装置「デフレクター」のように、携帯電話などの機器による「電子汚染」から人体を保護するという触れ込みの腕時計が発売された。
 発売元の米テスラー・インサイド社によると、このクオーツ時計『フィリップ・スタイン・テスラー』に組み込まれたチップは、バッテリーとコイルを使って一定の周波を発生させることにより、携帯電話、コンピューター、ラジオといった機器から発生する電磁波を中和するという。
 テスラー・インサイド社は、電磁波が頭痛、疲労、記憶力の減退といった健康上の諸問題と関係しているという研究結果が出ている、と述べている。フィリップ・スタイン・テスラーを着用した人は、睡眠が改善され、ストレスが減少し、集中力の向上と体力の増進がみられたと同社は主張している。
 「電磁波から身体を護ることで、身体の維持機能が向上し、電磁波に対する免疫系も強化される」と、テスラー・インサイド社の研究部門を率いるイロンカ・ハレジ氏は語る。「携帯電話を頭部に当てて使ったりしているのだから、こうした保護が必要だ」
 しかし、この会社の主張は全部でたらめだという人もいる。
 「(この種の機器には)財布を軽くする以外の効果は何一つ見込めない」と、ウィスコンシン医科大学のジョン・モルダー教授(放射線腫瘍学)は語る。同様の効果を主張する製品はこれまでにもたくさんあり、中には電磁波防止下着もあったという。
 ハレジ氏は1986年に、テレビや掃除機などさまざまな家電製品から発生する電磁波に過敏な人を助ける目的で『テスラー』チップを開発したという。同氏は、「環境的なハンディを背負った人」は、この時計をつけることで人生を取り戻せると話す。
 時計の製造をフィリップ・スタイン社に依頼し、「これまでの数年間、口コミだけで売れてきた」とハレジ氏は言う。「携帯電話、電気製品、コンピューターなどがいたるところにある現在、これは複合的な問題になっており、誰もがテスラー時計をつけるべきだと思っている」
 この時計は現在、ニューヨークの高級デパートブルーミングデールズとマサチューセッツ州のロイヤル・ジュエラーズで買える。値段はベーシックなタイプで600ドル、ダイアモンドがちりばめられたモデルで2000ドルだ。
 批判的な人々は、この会社の主張は馬鹿げているとして取り合おうとしない。
 電磁波の人体に対する影響は長年にわたって研究されているが、悪影響をもたらす証拠は何もないと、ネバダ大学ラスベガス校のジョン・ファーリー教授(物理学)は話す。
 「電子レンジにでも入らない限り大丈夫だ」とファーリー教授。
 米連邦取引委員会(FTC)は最近、電磁波から人体を保護するという機器を販売していた4社に対し、虚偽の宣伝を行なったとして提訴を含む強硬な措置を取った。いずれのケースもすでに解決している。
 「こうした主張を支持する科学的根拠を見たことがない」と、FTCの北東地域の責任者を務めるバーバラ・アンソニー氏は話す。「消費者は疑ってかかるべきだ。こうした製品の宣伝に使われる作り話にだまされてはいけない」
 米国セルラー通信・インターネット協会(CTIA)は、「詳細がわからないので、特定の製品――この場合は時計――についてはコメントできないが、FTCの提訴は消費者の漠然とした不安につけこむ企業へのみせしめだと思う」と述べている。
 しかし、この時計は単なるインチキ商品ではないと信じている人もいる。
 『ピープル』誌の記事によると、この時計のファンには、マドンナや、シャロン・オズボーン[英ロック歌手オジー・オズボーンの妻]、テレビキャスターのバーバラ・ウォルターズといった有名人がいるという。
 『ナショナル・フットボール・リーグ』(NFL)のオークランド・レイダースの選手や、オリンピックに向けてトレーニングを行なっている精鋭の陸上選手の中にもこの時計をつけている人がいる。
 米陸上競技連盟のスポーツ科学コーディネーターであるランディ・ハンティントン氏は、フィリップ・スタイン社のこの時計の広告を機内販売カタログの『スカイモール』で初めて見た。この企業から時計をいくつか寄贈してもらい、今ではハンティントン氏と、同氏がコーチをする選手約10名がこの時計をつけている。
 ハンティントン氏によると、選手たちは前に比べて練習に力が入り、不安や抑圧感を抱えていた選手は落ち着いたという。
 「私が知る限りで、多少はトレーニングの助けになった」とハンティントン氏は話す。
 米国のトップクラスの槍投げ選手タイ・セビン氏は、「以前は少し懐疑的だった」と話す。
 何週間かこの時計を着用した後、セビン氏は二度と外さないことにした。「この時計のおかげで自分の能力が高まると確信している」とセビン氏。
 アルコール飲料の卸売業者、米ユナイテッド・リカーズ社のルイス・ガック最高財務責任者(CFO)は、誕生日に妻から贈られたこの時計をつけるようになって、気分や体調の変化は感じないものの、大勢から趣味がいいとほめられたと話す。
 この時計は「人体と大地の電気的なバランスを自然な状態に戻そうとしてくれる」のだとガックCFOは語る。「これのおかげで1ヵ月前に比べて落ち着いたとは言えないが」
 「たぶん、送電線の下やフーバー・ダムにでも行って試したほうがいいのだろう」と、ガックCFOは冗談まじりに語った。
[日本語版:高橋達男/高森郁哉]
(2003/8/29:Wired News)
携帯電磁波有害説の急先鋒だった科学者が死亡
 携帯電話がガンをはじめとする各種病気の原因になると信じている人たちは、科学界の支持派の中でも急先鋒の人材を失った。
 ニュージーランドのリンカーン大学で環境保健の準教授を務めていた生物物理学者、ニール・チェリー博士が24日(現地時間)、運動ニューロン疾患によって亡くなった。57歳だった。チェリー博士は科学者としての仕事の大部分を、携帯電話の放射する電磁波が使用者に有害だと示す研究論文の収集にあててきた。業界を相手取って有名な訴訟を起こしたり、脳腫瘍患者の側に立って証言を行なったこともある。
 環境保健の擁護派や、電磁波を放射する機器を利用していたために自分が病気になったと信じている一般の人々など、チェリー博士を支持してきた人たちは、インターネット上で博士の死を悼んでいる。
 ニュースレター・サイト『EMFオメガ・ニュース』の読者は、次のように語っている。「博士はご本人の病気にもかかわらず、電磁波研究に非常に熱心に取り組んでいた。また、病気にともなうハンディキャップにもかかわらず、無線電波によって重い病気に冒された私のような者たちのために、全力を尽くしてくれた」
 「非常に高潔で勇気に溢れ、人々の健康のために戦った博士の人生は、世界をよりよい場所に変えてきた。通信業界が博士の信用を傷つけようと試みていたが、ものともしなかった」
 携帯電話業界を相手取って8億ドルの損害賠償を求め、注目を集めていた訴訟を昨年、連邦地裁裁判官が棄却した(日本語版記事)。チェリー博士と賛同者たちにとっては大きな打撃となる裁定だった。この裁定で、キャサリン・ブレイク裁判官は、医師のクリストファー・ニューマン氏――携帯電話を頻繁に使ったのが原因で脳腫瘍になったと主張していた――が、裁判を正式審理に持ち込むだけの十分な証拠を持っていないと述べている。もしこの訴訟が法廷に持ち込まれていたなら、業界はもっと多くの訴訟に見舞われていたはずだ。
 ニューマン氏の訴訟は結果的に棄却されたが、チェリー博士は、研究を続ける意欲を失わず、世界中で電磁波の危険性に対して人々の意見を変えさせる活動を続けた。
 あるニュージーランドの初等学校が1994年にチェリー博士を招き、学校敷地内に建設計画が提案されていた携帯電話基地局用のアンテナ塔が、児童に健康面の影響を及ぼす可能性があるかどうかついて、情報提供を依頼した。博士は、このアンテナ塔が出す電磁波は、小さな子どもに有害な可能性があると述べた。
 学校として提案を拒否したほうがいいという博士の奨めを保護者と学校側が受けいれ、投票の結果、校内のアンテナ塔建設案は否決された。
 チェリー博士は長年にわたって、私財を投げうち、電磁波研究に関する各大学の研究論文を集めるために世界中を巡り歩いた。環境活動家たちの会合に数え切れないほど出席し、無線周波数の電磁波を放射するテクノロジーのほとんどすべて――レーダー、電力線、電子レンジ、テレビ・ラジオ局のアンテナ塔、携帯電話用のアンテナ塔、携帯電話本体――が人間に何らかのリスクを与えると示す研究を紹介した。
 理想を言えば、携帯電話を利用せず、回線による通信だけに頼るのが望ましいというのがチェリー博士の立場だった。
 「われわれ(人間)は、(携帯電話信号にとって)非常に優れた伝導体だ。このため、携帯電話信号のほとんどは、われわれの体を通りぬけ、実際に携帯用の基地局に届くのは、ごくわずかに過ぎない」とチェリー博士は、マイクロ波放射に関する会議で発言していた。
 携帯電話の利用が長期的にどんな影響をもたらすかは、今のところ不明だ。しかし、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』誌と『アメリカ医学会雑誌』(JAMA)はどちらも、頻繁でなく短期間――5年以内――の携帯電話使用は、脳腫瘍の原因にはならないと結論付けている。米食品医薬品局(FDA)と世界保健機関(WHO)は、携帯電話が使用者の健康に有害だという証拠も、有益だという証拠も、存在しないと述べている。
[日本語版:湯田賢司/岩坂 彰]
(2003/5/28:Wired News)
携帯電話利用で、脳を有害物質から守るバリア構造に穴が開く?
 携帯電話の使用は健康に悪影響を及ぼすか――この疑問に新たな角度から光を当てるかもしれない研究成果が発表された。スウェーデンの研究チームが、世界で最も広く使われている方式の携帯電話が発する電磁波によって、ラットの脳に「穴」が開くことを確認したのだ。
 スウェーデンのルンド大学神経学科リーフ・サルフォード教授を代表とする研究チームは、生後12週〜26週のラットを『GSM』方式の携帯電話の電磁波にさらす実験を行なった。実験対象となったラットは、人間の年齢で言えばティーンエージャー――世界的に携帯の使用率が最も高い傾向にある世代――に相当するという。また、GSMは世界で最も普及している携帯電話方式で、とくに欧州、アジア、中東地域での利用が多い。
 「発育途上の脳については、特別な注意が必要かもしれない。生物学的にも発達の過程においても、とりわけデリケートな時期だからだ」と、研究チームが発表した論文には書かれている。「発育途上の世代が日常的に携帯電話を使用していれば、数十年後、まだ中年のうちに悪影響が出てくる可能性は否定できない」
 人体への悪影響についてはまだ立証されていないことから、携帯電話業界はこういった研究成果に対し、一貫して異義を唱えつづけている。世界保健機関(WHO)と米食品医薬品局(FDA)も、携帯電話が有害だとする証拠はないと述べているが、逆に無害だという確たる証拠もないとしている。また、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』と『アメリカ医学会雑誌』の両誌は、あまり頻繁でない短期間(最高5年)の携帯使用で脳腫瘍になることはないとの見解を示している。
 自身の脳腫瘍は携帯電話の頻繁な使用が原因だとして、メリーランド州の神経科医クリストファー・ニューマン氏が携帯電話会社や業界団体を相手に起こしていた訴訟も、最近になって米連邦地方裁判所により却下された(日本語版記事)。原告には訴えるだけの十分な証拠がないとキャサリン・ブレイク裁判官が判断したためだ。
 「携帯電話の使用が健康に悪影響を及ぼすおそれはないことを示す、科学的な証拠が次々と出てきている」と、米国セルラー通信・インターネット協会(CTIA)の広報担当者は述べている。「周知のとおり携帯電話は米国政府の基準によって厳しく規制されており、その基準も国民の健康を守る政府機関によって定期的な見直しが行なわれている。その一環として政府機関はつねに新しい研究成果を評価し、現行の基準が引き続き人々の健康を守るものであることを確認している。今回の研究成果も他の研究と同様に検討されることになるだろう」
 それでもなお、今回の研究成果は、科学界、携帯電話業界、そして世間の人々の注意を引いた。
 サルフォード教授らの研究成果は、米保健社会福祉省の国立環境衛生科学研究所が発行する学術誌で、論文掲載にあたって研究者間で事前審査を行なう『環境衛生展望』(Environmental Health Perspectives)に発表された。この研究はまた、携帯電話の使用が脳腫瘍以外の疾患を引き起こす可能性を示唆する初めてのものでもある。
 「大ニュースだ」と語るのは、電磁界研究の専門誌『マイクロウェーブ・ニュース』の編集者、ルイス・スレシン氏。「このような研究が発表されたからといって、携帯電話を使うと誰もが脳に損傷を受けるとは決めつけられないが、かといって無視するわけにもいかない」
 サルフォード教授のチームは研究の中で、ラットを3つのグループに分け、それぞれレベルの異なるGSM携帯の電磁波に2時間ずつさらす実験を行なった。その結果、電磁界(EMF)にさらされることが、ラットの血液脳関門[脳に有害な物質を入れないようにするバリア的な構造]からアルブミン――ヒトの血液中にも存在するタンパク質の1つ――が漏出する現象に関わっていることを突き止めたという。さらに、EMFにさらされる量が増えるほど、破壊されるニューロンが増すことも確認できたとしている。
 研究チームは、実験のサンプル数が少ないことを認めながらも、「総合的な結果は非常に重大なもので、さらされた量とそれが体に及ぼす影響の大きさが明らかに相関していることを示している」と述べた。
 脳のバリアにこうした「穴」が開くと、血液中を流れるものならほとんど何でも――有害物質も含めて――脳に流れ込んでくる可能性があるため、これは生命に関わる危険だと『環境衛生展望』の編集長、トム・ゴール博士は言う。
 「確かに、これはあくまで成長期のラットにおける結果だ。そのまま人間に当てはめることはかなり難しい。だが、今回の結果はこの問題を真剣に検討すべきだという警告かもしれない」
 ゴール博士の雑誌では、毎年800ほどの研究報告を審査するが、そのうち実際に掲載するものは平均20〜25%しかないという。
 にもかかわらず、この研究を即座に取り上げたのは、同様の研究の大半は携帯電話がガンを引き起こすかどうかに焦点を当てたものであるのに対して、これはそうではなかったからだとゴール博士は述べた。
 「これで、(携帯電話の問題を)別の側面からも考察することができる。この研究は、もしかすると今後に大きな影響を及ぼすかもしれない……(この問題を)もっと注意深く考察する必要があるという、これは警告なのだ」
[日本語版:森さやか/高橋朋子]
(2003/1/31:Wired News)
携帯電話が脳腫瘍の原因とする訴訟、証拠不十分で訴えを事実上却下
 携帯電話の電磁波が人体に有害かどうかを問う論争において、携帯電話業界は1つの勝利をおさめた。メリーランド州の医師が、自分が脳腫瘍を患ったのは携帯電話の電磁波が原因だとして米モトローラ社などを訴えていたが、連邦地方裁判所は9月30日(米国時間)、原告には訴えるだけの十分な証拠がないと判断したのだ。
 観測筋と業界関係者らは、医師のクリストファー・ニューマン氏が2年前に起こした訴訟の経過を注意深く見守ってきた。もし正式事実審理にかけられれば、肺ガンを患った喫煙者がタバコ会社を訴えて勝訴したときと同様、脳腫瘍の患者が携帯電話メーカーを訴える先例になったかもしれないからだ。
 ニューマン氏の弁護団には、アスベストのメーカーを訴えて勝訴した実績を持つボルティモアの有名な弁護士事務所のメンバーが含まれているが、米連邦地方裁判所のキャサリン・C・ブレイク裁判官は、同弁護団は携帯電話業界を訴えるだけの証拠を持っていないと判断した。
 「国内外ともに、[電磁波である]無線周波数の放射には科学的関心が寄せられているため、ガンとの因果関係を証明する原告側の理論および手法が科学界に広く受け入れられているかどうかを判断するための参照資料は十分に存在する」。ブレイク裁判官は、今回の決定理由の中でこのように述べている。「端的に答えれば、それが広く受け入れられていることは証明されなかった」
 ブレイク裁判官の言葉に誰よりも深く同意したのは、携帯電話業界だ。
 ニューマン氏の訴訟で被告に名を連ねる米国セルラー通信・インターネット協会(CTIA)は、声明の中で次のように述べた。「今日の決定は、携帯電話の使用は脳腫瘍などの病気に何の役割も果たさないという、国際的な科学コミュニティーの総合的な判断と一致するものだ」
 業界に8億ドルの支払いを求めていた訴訟の中で、ニューマン氏は、右耳の後ろにできた悪性腫瘍はモトローラ社製の携帯電話を頻繁に使用したせいだと主張していた。訴えられていたのは、モトローラ社のほか、米ベライゾン・コミュニケーションズ社、米ベル・アトランティック社、米ベル・アトランティック・モバイル社、米SBCコミュニケーションズ社と複数の業界団体だ。
 ニューマン氏の弁護団の1人、ジョン・C・P・アンジェロズ氏は、今回の決定には失望したと述べた。弁護団は現在、ブレイク裁判官の判断と今後の法的対応の選択肢を検討しているという。
 裁判所の決定に関係なく、科学者を含む多数の人々は依然として、今回の判断により携帯電話業界が無罪放免となるわけではないと話している。
 電磁波の影響に関するニュースレター『マイクロウェーブ・ニュース』の編集者、ルイス・スレシン氏によると、科学界は、使用頻度と時間が少なければ、携帯電話の使用は有害ではないと認めているという。ただし、頻繁に使用した場合の長期的な影響については、まだわかっていない。
 「この問題を解明するためには、携帯電話を長期間使い、長期間にわたって研究する必要がある」とスレシン氏は語る。「われわれはまだ、その段階に至っていない」
 米食品医薬品局(FDA)と世界保健機関(WHO)は、携帯電話が有害である証拠はないと述べている。しかしどちらも、携帯電話が無害だとは言明していない。
[日本語版:友杉方美/高森郁哉]
(2002/9/30:Wired News)
送電線電磁界の健康被害、可能性を50%以上とする公式報告書発表へ
 米カリフォルニア州保健局が8年の歳月と700万ドルの費用をかけて行なった送電線の健康被害に関する調査の最終報告書がまもなく公式発表されるが、それを前に、報告書のコピーがリークされた。それを見るかぎり、この報告書は、送電線周囲の電磁界(電磁場)とさまざまな健康被害との間に密接な関連性がある可能性を示す、これまでで最も信頼できる報告となるかもしれない。
 リークされたのは、カリフォルニア州公益事業委員会の指示で1993年にスタートした調査『カリフォルニア州電磁界プログラム』の最終報告書のコピーで、「程度の差はあれ、カリフォルニア州保健局の3人の科学者全員が、小児の白血病や成人の脳腫瘍、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリッグ病)、さらに流産の発生率に電磁界が何らかの影響を及ぼしているという考えに傾いている」と書かれている。
 「(米国内外の研究機関による)科学文献を評価するために招集された数々の科学委員会のメンバーの多数派より、カリフォルニア州保健局の科学者の方が、電磁界にさらされる機会が増えると上記のような健康被害を受ける危険性が高くなるという可能性を大きく見ている」と報告書は続ける。
 しかし、問題の報告書の執筆者で、それぞれ物理学、医学、遺伝学にも詳しい3名の疫病学者は、ガンから自殺に至るまで、さまざまな健康上の問題と電磁界との関連性を確信しているわけではない、とも記している。
 この報告書を巡って、ここ数年論争が繰り広げられてきた。昨年は、報告書の公開を妨害しているとして、カリフォルニア州保健局を訴える訴訟が起こされた。カリフォルニア州保健局はこれを受け、ウェブサイトに報告書の草案を掲載した。ここには、最終報告書と同じデータがすでに多く含まれている。
 最終報告書には、強い調子の概論に加え、個々の問題について執筆者各人の個人的確信度を示す図表が加えられている。これにより、個々の報告内容がいったい誰の考えなのかと憶測せずにすむ。
 電磁界と疾病の発生には何の関連性もない可能性も認めつつ、3名の執筆者全員が、先に言及した4つの疾患と電磁界との間には50%以上の確率で因果関係があると推定している。
 最終報告書を書いた科学者たち(2名はすでに計画から外れている)からはコメントを得られなかったが、カリフォルニア州保健局は、問題の報告書は「通常の検討プロセスを経て」数ヵ月のうちに公開されることになるだろうと述べた。
 電磁界の影響を研究する専門誌『マイクロウェーブ・ニュース』の編集者であるルイス・スレシン氏は、新報告書が出した結論はこれまでの数々の主張よりも重みがあると語る。
 「これをまとめたのは保健局だ」とスレシン氏。「今この分野の調査に携わっている人は、大半が電力産業と深く結びついている。保健衛生管理を専門とする人が関与する場合、調査の目的は健康面に限定され、経済面での影響を気にする必要がない」
 「これで問題がすべて解決するとは誰も言えない。彼らが言おうとしているのは、今回いろいろ調べた結果、そこには何かが存在すると考えられる、ということだ」
 500ページ強の報告書は、健康への影響についての記述に終始し、健康上のリスク低減についての勧告は行なっていない。これに対して、カリフォルニア州公益事業委員会に先頃提出された別の報告書には、改善にかかるであろう多額の費用についての詳しい記述がある。それによると、仮に50億ドル[約5900億円]を投じて、家庭や会社まで張り巡らされた送電線網の周囲の電磁界を弱める努力をすれば、送電設備の耐用年数である35年の間に1000人の命を救えるという。
 こういった情報を全面的に公開し、情報に基づく意思決定を可能にすることが重要だという意見は多方面で聞かれるが、イエスかノーかの明確な答えを求めている一般大衆にとって、確率の幅で示される可能性はかえって扱いにくいということも、やはり関係者の共通認識となっている。
 カリフォルニア州保健局の広報担当者は、「人々は、確実かどうかということを知りたがる。野菜や果物が体にいいということについてもなかなか確信してもらえないのだが」と述べた。
[日本語版:藤原聡美/高森郁哉]
(2002/8/19:Wired News)
電磁波の危険性は、携帯電話会社の特許記載が証明する?
 ボルティモアのジョアン・スーダー弁護士は、携帯電話業界と仲がよいとは到底言えない。
 スーダー弁護士は、人気の携帯電話を決して使おうとせず、CNNのトーク番組『ラリー・キング・ライブ』をはじめさまざまなメディアで機会あるたびに、携帯電話業界とその製品を声高に非難している。
 スーダー弁護士の名が最も知られているのは、おそらく、携帯電話業界に対して起こしている有名な8億ドル訴訟に関連してだろう。ボルティモア在住の神経科医クリス・ニューマン氏(41歳)が脳腫瘍を患ったのは、携帯電話が原因(日本語版記事)だとするものだ。
 裁判官への申し立てを次週に控えているスーダー弁護士は、他にも携帯電話業界を相手取る36件以上の訴訟を準備している。業界は消費者に有害な機器を販売しているというのが、スーダー弁護士の主張だ。
 科学的な研究では、有害とする結論もあれば無害とする結論もある。それでも、業界は無罪を主張しつづける。
 「何年にもわたって科学的に研究されてきたが、携帯電話が健康上の危険に結びつかないことは確認されている」とフィンランドのノキア社は言う。
 最近では、電磁波を遮断すると称して偽りの宣伝をしたとして米連邦取引委員会(FTC)がメーカー2社を提訴した件について、スーダー弁護士は、ワイヤレス業界がこれを「業界に都合のいいように解釈している」と非難する。スーダー弁護士は、FTCが詐欺的な宣伝を厳重に取り締まるべきだとする一方で、これに対する業界の反応を見れば、携帯電話に関連する健康被害について、業界が多くの情報を隠しているのがわかると言う。
 スーダー弁護士は次のように語っている。「連邦取引委員会がどう動く――あるいは、動かない――にしても、携帯電話業界はこれを自分たちの都合のいいように解釈するのだろう。今回の提訴では、電磁波から保護する機器など必要ないから、こんなインチキ機器は実効がないと言っているように見えてしまう。これは明らかに間違いだ……携帯電話の電磁波は危険であり、細胞に損傷を引き起こし、腫瘍を生じさせて死に至らしめる可能性がある」
 スーダー弁護士がボルティモア連邦地方裁判所に提出する予定の、携帯電話がこのような被害をもたらす証拠とは何か? 業界が提出している電磁波遮蔽技術に関する「おびただしい数の」特許だ。
 米特許局によると、ノキア社も1998年7月28日にこういった特許の1つを申請しているという。この特許には、ユーザーの脳内細胞を電磁波から保護する装置について記載されている。
 「電磁波の照射によって、神経系の支持細胞の異常分裂を刺激する可能性についてはすでに指摘されている。これが最悪の場合、悪性腫瘍の増殖へと進む可能性もまた指摘されている。上述の結論は科学的には証明されていないが、この不確定要素の存在が、ワイヤレス電話市場の成長にマイナスの影響を及ぼしている」とノキア社の特許は記している。
 スーダー弁護士によれば、米モトローラ社、スウェーデンのエリクソン社をはじめ、携帯電話メーカー各社は同じような特許を持っているという。
 「これらの特許はインチキではない。被告自体が言っているものなのだから」とスーダー弁護士。
 業界は、法廷でスーダー弁護士の証拠を退ける自信があるという姿勢を崩していない。
 ノキア社は、スーダー弁護士がしつこく取り上げるこの特許は「アンテナ効率」に関するもので、病気を防ぐ手段ではないとはねつけた。
 「携帯電話の機能が効果的に働くほど望ましいのであり」、それが消費者の利益にもなると、ノキア社は言う。
 来たるべき法廷はノキア社側にとって楽しいものとは言えないだろう。この件ではノキア社は被告になっていないが、別の訴訟でスーダー弁護士の怒りに直面しなければならないかもしれない
 法廷では、スーダー弁護士と携帯電話業界両双方から出された科学的証拠を裁判官が吟味し、ニューマン氏の脳腫瘍の原因が携帯電話かどうかを判定する。当訴訟の被告側は、モトローラ社、米ベライゾン・コミュニケーションズ社、米ベル・アトランティック社、米ベル・アトランティック・モバイル社、米SBCコミュニケーションズ社、電気通信工業会、米国セルラー通信・インターネット協会(CTIA)。
[日本語版:小林理子/福岡洋一]
(2002/2/22:Wired News)
携帯電話の電磁波の危険性、いまだ証明できず(上)
 米連邦取引委員会(FTC)は先日、2つの企業が製品に関し、携帯電話の使用者を危険な電磁波から守るという虚偽の宣伝を行なったとして両社を提訴したが、その際、FTCは詐欺を取り締まっているに過ぎないと主張した。
 FTCでは、携帯電話の電磁波から身を守ることに関心のある消費者に対し、別の方法を紹介した報告書を発表しているが、同時に携帯電話が有害であるとの決定的な証拠はないとも指摘している。
 FTCの広告審査担当副責任者を務めるメアリー・エングル氏は、次のように話している。「われわれは科学的な論争には加わらないようにしている。それは科学者の領分だ」
 科学者たちはいまだに頭を悩ませている。
 世界保健機関(WHO)と米食品医薬品局(FDA)では、ともに携帯電話の使用について論じてきたが、携帯電話に健康への危険があるのかどうか断言できない状態だ。
 WHOはウェブサイトで次のように説明している。「現在のデータには相違があり、健康への危険性をより適切に評価するためには、さらに研究が必要だ。[電磁波である]RF(無線周波数)に関して必要な研究を完了し、評価を行ない、健康への危険性があるかどうかの最終結果を発表するにはあと3〜4年ほどかかるだろう」
 FDAのウェブサイトでも同様の記述がある。「携帯電話は、低レベルのマイクロ波領域のRFエネルギーを放出する。高レベルのRFは生体への損傷を引き起こすことがあるが、低レベルのRFでも健康に悪影響を与えるかどうかはわかっていない」
 携帯電話から放出される電磁エネルギーが使用者に何らかの影響を与えることを示した研究はたくさんある。だが専門家によると、研究結果は一様ではなく、科学者たちは同じ研究結果を再現することができていないという。
 ワイヤレス電話業界が資金を提供している米ワイヤレス・テクノロジー・リサーチ(WTR)社が2000年6月に発表した調査によると、携帯電話から放出される電磁波はDNAを破壊するほど強力ではないが、血液中の遺伝子に変化をもたらすことが明らかになっている。
 頻繁に引用される『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』誌(NEJM)と『アメリカ医学会雑誌』(JAMA)の報告によると、携帯電話の使用で脳腫瘍になることはないというが、専門家によれば、これらの研究に欠陥がないわけではないという。
 電磁界研究の専門誌である『マイクロウェーブ・ニュース』の編集者、ルイス・スレシン氏によると、NEJMとJAMAの研究は、いずれも短期間(最高4年)での携帯電話の使用を対象にしているうえ、中にはわずか5回しか電話をかけないことを前提にしたものもあるという。
 「煙草にたとえるのは好きではないが、煙草を5本吸っただけでガンになる人がいるだろうか? それではすべての人が死ぬことになる」と、スレシン氏は述べた。
 携帯電話に健康への危険が全くないと言うことはできない、とスレシン氏は言いながらも――「何しろわからないのだ」とスレシン氏――、FTCが問題のある2社に対して警告を発したことについては、スレシン氏も賛同した。また、携帯電話を使用する人々に対して安全のための別のガイドラインを発表したFTCの決断についても賛辞を送っている。
 「この分野では、消費者に知識がないことにつけ込んだ手口が山のようにあり、間違いなく、その多くは効果がない」とスレシン氏は述べた。
(下に続く)
[日本語版:平井眞弓/山本陽一]
(2002/2/22:Wired News)
携帯電話の電磁波の危険性、いまだ証明できず(下)
 FTCは20日(米国時間)、ストック・バリュー・ワン社(フロリダ州ボカラトン)とコムスター・コミュニケーションズ社(カリフォルニア州サクラメント)に対し、携帯電話の受話口から放出される電磁波を最大99%遮断するという製品の宣伝を行なったとして訴訟を起こした。これらの製品は金属繊維でできていて、携帯電話の受話口にかぶせて使用する。
 どちらの会社とも連絡は取れなかった。FTCでは両社とも存在すらしていない可能性があることを認めた。
 FTCのエングル氏は、次のように述べている。「彼らは(ウェブサイトを)閉鎖した可能性がある。われわれの知る限り、(ストック・バリュー・ワン社とコムスター・コミュニケーションズ社は)先週の時点でウェブサイトを運営し、製品を販売していた」
 「われわれは虚偽の広告を取り締まっている。両社の宣伝は嘘だった」とエングル氏は語り、これらの製品をそれぞれテストした結果、効果がないことがわかったと付け加えた。
 FTCや携帯電話業界と同様に、マイクロウェーブ・ニュース誌のスレシン氏も、このような企業が人々の不安につけ込んで、効果のない製品を消費者に売っていることに懸念を表明している。
 また、このような対処法によって携帯電話使用者がさらに強い電磁波を浴びる可能性もあるという。携帯電話は基地局と通信できるように、常にRFを出している。
「携帯電話に細工をして、基地局との通信をしにくくすると……さらに強く電磁波を浴びることがある」とスレシン氏は述べた。
 携帯電話メーカー各社では、いずれにせよ携帯電話は有害ではないので、そのような遮蔽方法は決して推奨しないとしている。
 スウェーデンの携帯電話メーカー、エリクソン社の広報担当者は次のように話している。「携帯電話の電磁波放出レベルは、人間に害を与えるとされるレベルよりもはるかに低いので、私は問題だとは考えていない」
 それでも不安を感じる消費者に対しエリクソン社では、ヘッドホンやイヤホンなどの「ハンズフリー」システムを使うよう勧めている。またFTCは、電波が届きにくい場所では基地局と通信するために電磁波の放出が多くなるため、携帯電話を使わないよう忠告している。
 『米国セルラー通信・インターネット協会』では次のように述べている。「ワイヤレス業界はこの問題について、長い間科学者に意見を求めてきた」
 「WHOではこう言及している。『携帯電話にRFを吸収するカバーや装置を取り付ける必要性があることは、科学的な証拠では示されていない。これらの装置は健康上の理由から正当なものとすることはできず、装置の多くはRFを浴びる量を低減する効果が証明されていない』」
[日本語版:平井眞弓/山本陽一]
(2002/2/22:Wired News)
解決は遠い? ワイヤレス機器の電磁波被害問題
 電磁波が健康に害を及ぼす可能性については、長年にわたって激論が続いており、大衆の不安が収まるきざしは一向に見られない。
 活動家たちはとくにワイヤレス技術の急激な普及を懸念し、研究や法整備を待たずに業界が先走りしていることを心配する。
 無線周波数を使う機器の数は、米連邦通信委員会(FCC)が電磁波の周波数帯を細分してパーソナル・コミュニケーション・システム(PCS)向けに競売にかけはじめた90年代半ば以降、急増している。『米国セルラー通信・インターネット協会』(CTIA)によると、現在、1億2900万人以上の米国人が携帯電話を所有しているという。
 そして、毎日のように新しいワイヤレス機器やワイヤレスサービスが発表されている。たとえば、ケーブルなしでネットサーフィンができるワイヤレスLANだ。市場調査会社の米カーナーズ・インスタット・グループ社によれば、ワイヤレスLANの世界市場は2002年の10億ドルから2004年には45億ドルに急増する見通しだという。
 電磁波の「責任ある使用」を呼びかける非営利団体『電磁放射ネットワーク』のジャネット・ニュートン代表は、「われわれはワイヤレス機器に取り囲まれて暮らしているが、まだ答えの出ない問題が数多くある。いつか、健康被害に直面する可能性もある」と語る。
 同ネットワークは、無線電波(無線周波数帯300Hz-300GHzの電磁波)を浴びることに関するFCCのガイドラインが甘すぎると考えており、もっと厳しい規制を採用させるため、裁判所に複数の申し立てを行なっている。だが今のところ、この努力は実を結んでいない。
 電磁界が及ぼす影響の研究は世界中で数え切れないほど行なわれ、相反する研究結果が明らかになっている。無線にさらされることは有害でありガンなどの病気を引き起こす可能性があるとした研究もあれば、その反対の意見もある。無線周波数を使って悪性腫瘍を破壊した研究チームさえある。
 だがそうした研究にもかかわらず一般の人々の不安は深刻で、世界保健機関(WHO)は1996年、『国際電磁界(EMF)プロジェクト』を創設した。2005年まで続けられるEMFプロジェクトの目的の1つは、人間が受ける電磁波の許容量に関する国際基準を確立することだ。
 ニュートン代表のような反ワイヤレス派の活動家は、はっきりとした答えが出るまでは過剰なくらい細心の注意を払い、できるだけ従来の通信機器を使うべきだと話している。
 「もし新薬の試験で相反する結果が報告されたなら、販売許可は決して下りないだろう」とニュートン代表。「ワイヤレス機器の問題の有無を知る十分な研究は、まだ誰も行なっていないのだ」
 FCCは無線電波の許容量に関するガイドラインの変更を予定していない。ガイドラインを決定しているのは、『全米放射能防護測定委員会』(NCRPM)だ。
 「電磁界が健康に害を及ぼすという明確な証拠はない」と話すのは、電磁波の安全性に関するFCCのプログラムに参加している科学者のエド・マンティプリー氏。「われわれは安全基準を定めているが、これは本質的には制限速度のようなものだ。制限速度以下だから安全、あるいは超えたから危険だということを保証するものではない」
 FCCは大まかな経験則として、機器の使用電力1ワットごとに、機器から1インチ(約2.5センチ)離れるよう勧めている。たとえば、10ワットの無線機を使う場合は、25センチ離れるということだ。
 マンティプリー氏の仕事の1つは、電磁波に影響を受けているのではないかと心配する人々からの電話に答えることだ。相談の内容は理にかなったものもあるが、なかにはオカルトがかったものもあるという。
 電話口でマンティプリー氏に頭痛がすると訴えFCCを非難する人もいる。あるいは「電気に敏感」なため電磁波を感じる――そして害を受けている――と信じている人もいる。
 たわごとだ、とマンティプリー氏は言う。
 「たぶん精神的に問題があるのだろう」とマンティプリー氏。「こういったことを訴える人の多くは、トラウマを抱えているか、妄想にとりつかれているのだと思う。世間にはそういう悲しい事例がたくさんある」
 また同氏は、スウェーデンの研究者たちが電気に敏感で苦しんでいると主張する人々を二重盲検法[被験者にも実験者にも実験の仕掛けを教えない]によるテストにかけたが、被験者は電磁界の存在を察知できなかった、と付け加えた。
 それでもマンティプリー氏は、健康に関してさらに調査を進める必要があることを認めた。
 「われわれが理解していない根本的な科学がある。さまざまな研究所がさまざまな結果を出している。この問題はまだ解決されていないのだ」
[日本語版:大津哲子/高森郁哉]
(2002/1/22:Wired News)
「危険な電磁波一掃運動」を主張する団体(上)
 アーサー・ファーステンバーグ氏(51歳)は、ニューヨークを離れ、カリフォルニア州メンドシノに越してきた。カリフォルニア州北部にあり、古風なビクトリア朝の趣をもった岩場の多いこの海辺の町に移り住んだのは、無線の電磁波から逃れるためだ。電磁波は健康を害すると、ファーステンバーグ氏は確信している。
 ファーステンバーグ氏は、自分が電磁波過敏症なのだと言う。ヘアドライヤーから電線にいたるまで、ありとあらゆるものから発せられる電磁波を感じ取ることができるし、電磁波によって健康を害されているというわけだ。
 これはファーステンバーグ氏に限ったことではなく、同じように被害を受けていると訴える人の数は、世界中で増えている。1990年代半ばにワイヤレス技術が急速に広まって以来、電磁波公害を避けることのできる場所はますます減ってきたと、被害を訴える人々は言う。
 「電磁波に敏感な人間にとって、世界は地雷原のようなものだ」と、ファーステンバーグ氏は語る。同氏は『地球を覆うマイクロ波』(Microwaving Our Planet)を著わしており、気分がいらいらするのも、ガンにかかるのも、すべて電磁波のせいだと述べている。
 ファーステンバーグ氏は、『無線特別調査団』(Cellular Task Force)という電磁波に敏感だと訴える人々の全米組織の会長を務めている。また『メンドシノからワイヤレスをなくす会』(Wireless Free Mendocino)の会員にもなっている。こちらはその名の通り、メンドシノからワイヤレスサービスを追放しようとしている地元の団体。
 ファーステンバーグ氏は、次のように語る。「私のところには、四六時中苦痛でしかたがないと訴え、どこか安心して暮らせるところを知らないかと尋ねる必死の電話がかかってくる。そんな人々に、われわれはメンドシノを保護区域にしようと努力していると答えているのだ」
 『メンドシノからワイヤレスをなくす会』は、目標達成に向かってかなりの成果をあげてきた。メンドシノの人口は約1000人。携帯電話サービスや高速インターネット・サービスをこの町で実施する試みが挫折したのは、この団体の力によるところが大きい。現在は、高校のラジオ局に対して、アンテナを校舎の屋根から撤去させようと運動している。懸命に頑張っている生徒たちにとっては、死刑宣告に等しいような運動だ。
 ファーステンバーグ氏は、町の人々の健康を守るために戦っているのだというが、反対派の人々は、この団体のせいで企業が通信条件のよい他所に逃げ出し、残っているのは低賃金の観光産業関連の仕事だけになり、町の将来的な発展のチャンスを狭めたと非難する。
 メンドシノでウェブ対応の温度観測装置を構築している企業、エルーシット社のリー・リブジー最高技術責任者(CTO)は次のように語った。「要するに、この町は人口がきわめて少ないうえに、住人の多くは技術が苦手だということだ。ファーステンバーグ氏は、声高に騒ぎ立てる少数の人々に、ワイヤレスは有害だと信じ込ませた」
 エルーシット社は、拠点をメンドシノから、少し離れたフォートブラッグに移転する計画だ。地元のインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)、メンドシノ・コミュニティー・ネットワーク社(MCN)が提供しているのは不安定なISDNだけだが、フォートブラッグに行けばもっと確固たるインターネット・パイプを利用できるからだ、とリブジーCTOは語った。
 MCNは地元の学校区が経営主体であり、メンドシノ高校を拠点にして運営されている。昨年は、高速ワイヤレス・インターネット・サービスを導入しようと激しく戦っていたのだが、数週間前ついに断念してしまった。
 ワイヤレス・ブロードバンドの提供を開始しようというMCNの計画が、2001年春に、メンドシノ高校の理事会へ提出された。この発表の瞬間から、『メンドシノからワイヤレスをなくす会』は猛烈に反対した。一連の公開討論会が催され、技術畑の人々は、MCNの新サービスを支持した。一方、ワイヤレス反対派は、MCNの計画は危険だと主張した。ある会合のときなど、漏れだしているかもしれない電磁波を跳ね返そうと、濃いサングラスをかけ、保護用のヘッドギアをかぶった女性までいた。
 MCNの計画に反対する嘆願書には、260人以上が署名した。そのうち16人は、ワイヤレスによる電磁波があると気分がすぐれなくなると訴えている。しかし、メンドシノ高校の理事会は、MCNの計画を承認した。このため、戦いは続き、地元紙『メンドシノ・ビーコン』紙の論説欄に、痛烈な投稿が載ったり、町中にビラが貼られたりした。
 メンドシノ高校校舎の屋根にワイヤレス送信機が設置されると、ある母親は女生徒を学校から連れ出した。英語を教えるクリスティー・ワグナー氏は、生徒が急に「いらいらしやすくなり、注意力散漫になった」だけでなく、自分も学校にいるといつもむかむかするようになったという。ワグナー氏は9月から体調不良で休職している。
 「マイクロ波のパルス波をこんなふうに急激に浴びてしまったのは、私にとって悲劇だった。今でも過敏症はおさまらず、コンピューターを使おうとマウスに触っただけで、手がヒリヒリするようになってしまった」と、問い合わせに答えた電子メールで、ワグナー氏は述べている。
(下に続く)
[日本語版:小林理子/岩坂 彰]
(2002/1/22:Wired News)
「危険な電磁波一掃運動」を主張する団体(下)
 結局、メンドシノ・コミュニティー・ネットワーク社(MCN)は昨年12月にワイヤレス・ブロードバンド・サービスの計画を取りやめた、と同社の営業責任者、レニー・イニス氏は言う。反対運動が起こる前に行なわれた市場調査では採算のとれる需要を示す結果も出ていたのだが、わずか60人の申し込みしかなかったためだ。
 電磁波過敏症は、米国の医療機関では病気と認められていない。ファーステンバーグ氏は身体障害者所得補償手当の支給を受けているが、支給を認められた際の診断書の公表を拒んでいる。同氏は、化学物質過敏症でもあると言うが、これに関しても根拠がないと否定する医師は多い。
 ファーステンバーグ氏によると、電磁波過敏症になったのはカリフォルニア大学アービン校の医学コース予科の学生だった1982年、歯科用のX線を40回あまり受けた後のことだったという。ある日、突然、心臓の痛みを覚えて病院の床に倒れ、その後2週間で7キロ近くも体重が減った。それに、電子機器の近くにいると息苦しくなるようにもなった。そうしたことから結局、大学を中退して「クリーン環境」のメンドシノに引っ越したというわけだ。
 今では、ファーステンバーグ氏が旅行するときは、電磁波を測定するいろいろな計測器もいっしょだ。
 ワイヤレス機器だらけのサンフランシスコ――メンドシノから南に3時間ほど――に行くと、こういった機器は激しく反応するという。そして、ファーステンバーグ氏自身、抑えきれない喉の渇き、胸と眼球の奥が圧迫されるような不快感、唇が「小刻みにけいれんするような感覚」など、さまざまな症状を経験するという。
 「私が米国各地でワイヤレス関連施設の拡がりを阻止するために懸命な運動をしているのは、そうした施設が国民の健康を損ねていると固く信じているからだ」とファーステンバーグ氏は言う。コーネル大学卒で数学の学位(副専攻は物理)を持つ同氏は、「科学者や一般の人々に、これが問題なのだという認識を広めなければならない」とも述べている。
 ファーステンバーグ氏が攻撃対象にしているものの1つに、1996年に制定された通信法がある。これは、電磁波の「環境的影響」という理由では、地方自治体がワイヤレス施設を禁止できないとした法律だ。
 翌1997年、ファーステンバーグ氏の『無線特別調査団』も含むワイヤレスに反対する団体の連合が、米連邦通信委員会(FCC)を相手取って訴えを起こした。通信法の条項は地方自治体が住民の健康を守ることを妨害するものであり、連邦政府の権限を制限した合衆国憲法修正第10条に違反しているというのがその主張だ。
 この訴訟は、原告団によると200万人以上の人々の意見を代表するものだったが、連邦第2巡回控訴裁判所はこれを棄却し、再審理も連邦最高裁判所によって却下された。
 健康被害を理由としては携帯電話用アンテナ塔建設を阻止できないため、ワイヤレス反対派は、他の理由で建設阻止にもっていける条項がないか、自治体の条例をくまなく調べる戦術を採った。
 メンドシノの場合はこれが成功した。携帯電話サービスは公衆の安全を向上させるという保安官事務所の証言があったにもかかわらず、町の『歴史検討委員会』(Historical Review Board)は、米USセルラー社が建設を予定していたアンテナ塔に対する、高さ制限の特例措置を認めなかった
 『メンドシノからワイヤレスをなくす会』の次の標的は、メンドシノ高校校舎の屋根に設置された2本の送信アンテナだ。同会はやはり高度制限違反を主張している。1本は同校の生徒の放送局『KAKX』が使っているものだ。不要品セールの売上や寄付などをこつこつ集めた資金で運営されているこの放送局がアンテナ撤去に追い込まれたら、新たなアンテナを建てる資金はないだろうと、放送局の責任者スコット・サザード氏は懸念する。
 同校で聴覚教育担当の教師でもあるサザード氏は、電磁波問題がこの小さな町のコミュニティーを引き裂いてしまったとも嘆く。
 「校舎の上のアンテナ塔は30年も前からずっとある。ファーステンバーグ氏が誤解と恐怖を呼び覚ますような運動を始めるまでは、苦情など全くなかったのだ」、とサザード氏は苦々しげに語る。「熱狂的すぎる人とは話が通じない」
[日本語版:中沢 滋/小林理子]
(2002/1/22:Wired News)