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主催 : 公益社団法人大阪府建築士会 / 後援 : 大阪府
「大阪建築コンクール」の趣旨
建築士はその職責を通じて地域社会の発展に寄与し、建築美を通じて建築文化の向上、ひいては地域文化の振興にも寄与していく必要があり、その責務は重大である。
大阪建築コンクールは、建築士と社会とのかかわりを通じて建築作品を評価し、その優れた実績をたたえ、建築作品の設計者である大阪府建築士会正会員または大阪府在住もしくは在勤の設計者を表彰する。同時に行う渡辺節賞については、新しい建築文化の原動力となる若い優れた設計者をたたえ、さらなる発展を望むものである。
募集範囲
2013年1月1日から2017年12月31日の間に竣工し、完了検査済証の交付を受けた建築物
*建築確認申請不要物件は完了検査済証不要
*竣工年月日は工事完了時
審査委員会
委員長 | 松隈 洋(京都工芸繊維大学教授) | ||||
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委 員 ※50音順 |
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受賞作品紹介
●大阪府知事賞部門
賞 | 受賞 | 設計者 |
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大阪府知事賞 | 豊中市立文化芸術センター | 江副 敏史・多喜 茂・萩森 薫・宮本 順平(株式会社日建設計) |
てんしば | 松田 知也・宮島 照久・鈴木 雅史・西村 敬(株式会社竹中工務店) |
●渡辺節賞部門
賞 | 受賞 | 設計者 |
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渡辺節賞 | 該当作品なし | - |
奨励賞 | 西陣産業創造會舘(旧京都中央電話局西陣分局舎) | 柳樂 和哉(株式会社NTT ファシリティーズ) |
審査経過並びに総評
審査委員長 : 松隈 洋
長い歴史を誇る大阪建築コンクールでは、これまでも何度か審査委員を務めた経験はあった。けれども審査委員長ははじめての経験であり、他の委員とはすべて初対面である。緊張しながら審査に臨むことになった。でも杞憂だった。事務局のサポートもあって、活発な議論が交わされ、評価軸をめぐっても、自然なかたちで意見がまとまっていった。審査の中で大切にしようと思ったのは、大阪府知事と渡辺節の名前を冠した賞の意味を再確認することである。大阪府知事賞は、誰もが共有できる公共的で普遍的な方法と価値をつくり出していること、渡辺節賞は、新人賞の意味合いも強い賞の性格から言っても、建築家の出発点となる原石のような硬さと色あせない若々しさが求められること。そのような視点が議論を通して共有されていったと思う。逆に言えば、それは、今の時代において建築の何を評価し、何を選ぶのか。審査員の見識そのものが問われる作業でもあった。
今回は知事賞部門に34点、渡辺節賞に16点の応募があり、最初に応募書類による一次審査を行った。十分な時間をかけて各自で応募書類を見て回った後、それぞれの判断により、現地審査に推す作品の投票を行った。そして、集計結果を見ながら、得票を得た一つ一つの作品の何を評価したのか、について各委員が意見を出し合い、評価軸を見究めつつ、最後は投票ではなく、全員の合議により現地審査の対象となる建築を選定した。
一次審査の結果、府知事賞7点、渡辺節賞3点が現地審査の対象となり、2日間にわたって全10作品を巡った。そして、2回目の現地審査の翌日に最終審査会に臨んだ。そこでは、巡った順に、書類審査時点との印象の違いも含めて、現地で立地条件や建物の在り方を実見し、設計者からの説明を受けた上での最終的な評価について、各自の意見を交わしながら、最終候補の絞り込みを行った。この際、一次審査と同じく、投票ではなく、議論を尽くすことを心がけ、最後は、やはり合議により、全員一致で受賞作品を決定した。
府知事賞に選ばれた二つの作品は、まったく異なる与条件と規模ではあったが、いずれも現在の建築界で共有したい方法と価値を有する点で、高く評価された建築である。「豊中市立文化芸術センター」は、地元の文化への理解度の高さもあるのだろう、市側の周到な企画に基づいた建築計画から、独自の構法の開発や素材の追求に至るまで、正道と言える説得力のある完成度が実現されていた。隣に建つ既存の文化施設との関係性も良く練られており、その控え目なたたずまいと安定感は特筆に値する。10年前からそこにあり、10年後も変わらずに市民に愛されているだろうと思えた。また、「てんしば」は、厳しい予算と工期の中で、事業に求められた都市に対して閉じていた公共空間を開くことに成功しており、小さな建築ながら、ランドスケープ的な都市への大きな提案を堅実に果たしていることが評価された。ただ、現地を訪れて残念に思ったのは、竣工後に別の設計者によって増築や新築が行なわれ、中央の芝生広場の使い方も、設計者が思い描いた、誰のものでもない都市の広場的性格を損ねている印象を受けたことである。竣工当初の良さが保たれ、健全な形で活き活きと使われるために何が必要なのか。発注者と管理者、ひいては市民の公共空間への意識の向上こそが求められているのではないかと思う。そして、渡辺節賞奨励賞に選ばれた「西陣産業創造會舘」は、国の重要文化財の旧・京都中央電話局西陣分局舎(1921年)を耐震改修したものだが、一担当者としての立場を超えて、個人的な時間を費やしてこの建築の歴史を研究調査し、それを活かす形での改修を行った設計者としての取り組みに共感が集まった。大組織の中で、このような仕事に挑む若い設計者が出てきたこと自体、時代の転換を象徴している。今後、既存建物の改修という地道な試みがさらに広がり、歴史と時間と対話することの意義が若い世代に共有されていってほしいと思う。
続いて、現地審査で受賞に至らなかった作品について、コメントを記しておきたい。府知事賞候補の「竹谷商事新社屋」は、基礎扱いの1階部分の取り扱いと事務室の採光や断熱などに難が指摘され、「Zepp大阪ベイサイト」は、ライブハウスとして求められる厳しい性能に応える機能の追求は注目されたものの、周辺環境への開き方や開演待ちの空間の乏しさが弱点となった。「宝ホールディングス歴史記念館」と「大光電機株式会社技術研究所」は、記念館と研究所という、いずれも一般には開放されていない施設として、それぞれ求められた要求に的確に応えた良質で洗練された建築ではあったが、周囲に対して閉鎖的な外観の印象と、使用者にとっても外部との関係性を味わいにくい空間構成が惜しまれた。「近畿大学東大阪キャンパス整備計画」は、新しいキャンパス像を求める大学側の希望を忠実にかなえた斬新なデザインが眼を引いたが、さまざまなデザインコードの寄せ集め的な印象が強く、設計者の理想とする大学キャンパス像とは何か、についての核心となる設計思想が読み取れない点が残念に思えた。渡辺節賞候補の「ある画家のアトリエ」は、施主の求めに丁寧に応じた空間構成とディテールの完成度が注目されたが、渡邊節賞に期待される建築に向き合う初心の緊張感を感じ取ることができなかった。「JURAKURO」は、厳しいコストの中で工夫しながら良質な空間構成を実現している一方で、範を得たという京町屋の良さである露地や坪庭による光と風の抜けが実現されていないことや周囲に対して突出したスケールであることに異論が出された。
最初に触れたように、さまざまな条件や規模を持つ多様な応募作品を審査する中で、審査員一同がその建築に発見したいと強く願ったのは、施主との共同作業の先に立ち現れる、こんな空間が身近な場所に増えていったら居心地の良い街になる、と誰もが思える普遍性と公共性を持つ風景に対する構築への意志だったのだと思う。この歴史ある大阪建築コンクールをめぐる議論が、これからもそのことへ向けて開かれていくことを願っている。
平成30年度 | 第63回大阪建築コンクール入賞発表 |
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平成29年度 | 第62回大阪建築コンクール入賞発表 |
平成28年度 | 第61回大阪建築コンクール入賞発表 |
平成27年度 | 第60回大阪建築コンクール入賞発表 |
平成25年度 | 第59回大阪建築コンクール入賞発表 |
平成24年度 | 第58回大阪建築コンクール入賞発表 |
平成23年度 | 第57回大阪建築コンクール入賞発表 |
平成22年度 | 第56回大阪建築コンクール入賞発表 |
株式会社IAO 竹田設計 | 岸下 和代 | 濵田 徹 |
あけぼの住研有限会社 | 岸下 秀一 | 株式会社原田彰建築設計事務所 |
ATELIER-ASH | 岸下 真理 | 株式会社ピアレックス・テクノロジーズ |
株式会社アトリエ天藤 | 木原千利設計工房 | 藤田 忍 |
生山 雅英 | 越井木材工業株式会社 | 水谷 敢 |
今井 俊夫 | 榊原 節子 | 株式会社三菱地所設計 |
株式会社インターオフィス | 修成建設専門学校 | 森村 政悦 |
上田 茂久 | 須部 恭浩 | 山城 健児 |
岡﨑 雅 | 田中 義久 | 横田 友行 |
岡本 森廣 | 辻井 光憲 | 芳村 隆史 |
織部製陶株式会社 | 株式会社徳岡設計 | 米井 寛 |
有限会社家倶家 | 中島 薫 | 株式会社ライト・ストリート総合計画 |
岸下 愛子 | 株式会社ノザワ関西支店 | 竹原 義二 |
中嶋 節子 | 大阪府住宅まちづくり部 堤 勇二 | 森田一弥建築設計事務所 |
金森 秀治郎 | 越智 正一 | 樫永一男建築研究所 |
都窯業株式会社 河原輝雄 | 長谷川 総一 |